第6回│『こち亀』という“呪いの否定”──秋本治が示した成熟した出口戦略
執筆日: 2025-07-02
公開日: 2025-07-16
永遠に続く形式とその本質
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、連載開始当初から【永遠に続くことを前提とした日常】を作品の本質として設定していた。秋本治は、この終わりのない構造を巧みに活かし、時代の流れや社会の変化を柔軟に取り込みながら、常に新鮮さを保つことに成功した。
秋本治が示した【終わる勇気】
しかし、秋本治は連載40年という節目において明確に終わりを宣言した。この行動は、自らが築いた【永遠に続けられる形式】をあえて終結させるという勇気ある決断であり、作家としての成熟を示す象徴的な出来事となった。
形式を殺さず眠らせる
『こち亀』の終了は、単なる作品の終焉ではなく、作品が持つ形式を維持したまま適切な時期に幕を下ろすという絶妙な出口戦略だった。秋本は作品やキャラクターを【殺さず】、その魅力や可能性を永遠に残す形で終わらせることを選んだ。この戦略は作品への敬意を示し、漫画文化全体の成熟を促す重要なモデルケースとなった。
日常系作品が学ぶべき出口戦略
『こち亀』が示した出口戦略は、『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』のような、終わりが曖昧なまま延命され続ける日常系作品にも重要な示唆を与えている。いかに長寿で普遍的な作品であっても、自然な寿命や文化的なタイミングを見極めて終えることが、作品の文化的価値や作者の意図を最大限に尊重する道であることを示している。
結論:真の文化的成熟へ
秋本治が示した出口戦略は、漫画業界全体が学ぶべき文化的成熟の手本である。物語が持つ【終わるべき地点】を見極め、適切に終結させる勇気こそが、物語と文化の本質的な価値を守るために不可欠なのである。