第4回│黄金比の崩壊──『ジョジョの奇妙な冒険』に見る無限連鎖とその罠
執筆日: 2025-07-02
公開日: 2025-07-08
第三部までの【黄金期】
『ジョジョの奇妙な冒険』は、独特な絵柄と斬新なストーリー構造により、漫画界に革命的な影響を与えた。特に第三部における【スタンド】という革新的な概念の導入は、構造的飛躍と作家・荒木飛呂彦の創作的必然性が絶妙なバランスで融合し、作品の【黄金比】と言える完成度を示していた。
荒木飛呂彦の挑戦と革新性
荒木飛呂彦の特筆すべき挑戦は、物語を連載ごとに刷新する【世代交代】と【舞台転換】の大胆さにあった。作品ごとに血脈と時代を切り替える手法は、作品に無限の可能性と新たな視点を提供し、作家として絶え間ない革新性を追求する姿勢を示している。これは、漫画界において非常に稀有であり、荒木の創作的野心と挑戦心は賞賛に値するものである。
無限連鎖が生み出す物語の曖昧性
しかし、『ジョジョ』であり続けるために物語を延々と繰り返す構造は、作品の核心的なテーマやキャラクターの目的性を曖昧化させる結果を招いた。第八部以降では、新たな設定や世界観が次々と提示されるものの、物語の中心軸は明確さを失い、読者に「本当に続編を読んでいるのか、あるいは作品の周縁をたださまよっているのか」という疑問を抱かせてしまう。
呪縛としての『ジョジョ』というブランド
『ジョジョ』というブランドは荒木にとって創作活動を支える強力な基盤であると同時に、自身が生み出した作品のゴーストを解放できない呪縛としても機能している。新たなアイデアやコンセプトを提示しようとしても、常にブランドイメージと過去作品との関連性を維持することが求められ、作家としての自由な表現を阻害する可能性がある。
結論:【無限連鎖】から脱却する勇気
『ジョジョの奇妙な冒険』が示してきた革新性や挑戦的な姿勢は、漫画文化に対する荒木の重要な貢献として評価されるべきだ。しかし、真に作品の価値を保ち、創作の自由を守るためには、『ジョジョ』というブランドから離れて物語を終わらせる勇気が必要ではないだろうか。無限連鎖から脱却することが、作家が物語に対して果たすべき最も重要な倫理的責任である。
【付記】荒木飛呂彦の視覚芸術としての評価
荒木飛呂彦は卓越した画家・デザイナーでもある。その独創的で洗練された画風や色彩感覚は、日本の漫画界を超え、世界のファッション業界や現代美術界にも多大な影響を与えている。『ジョジョの奇妙な冒険』が継続的な評価を得ている背景には、こうした視覚芸術家としての圧倒的な能力も寄与していることを付記しておきたい。