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Shin Sugawara // 菅原真

丹下健三の名建築、香川県立体育館解体へ──なぜ自治体は民間の再生提案を拒むのか

『行動の芸術』の観点からの前提整理

 『Art of Action(行動の芸術)』は哲学を【言葉】から【行動】へと根本的に転換する思想運動であり、抽象的な理論を具体的行動に実装し、その行動自体に美的価値を見出す思想である。

  • 思想や倫理の具体的な実装
  • 主体的かつ創造的な行動の美的評価
  • 自己の審美眼に基づく行動の尊重
  • 行動の連鎖による社会的影響
  • 批評のみで行動しない態度への否定
  • 実行自体に価値を置き、結果の成否は二次的

 易しく言い換えれば次の通りとなる。

  • 「行動すること自体」が重要で、具体的に実践を伴うかどうかが評価基準。
  • 行動しない、評論だけで終始する人や主体的行動を放棄する人は明確に否定される。
  • 小さな実践でも具体的な行動を継続する者は尊敬される。
  • 「自らの審美眼に基づく主体的行動」は美的であるが、「受動的・無自覚な行動」は美的に醜い。

『Art of Action(AOA)』(行動の芸術)の観点から、香川県立体育館の解体問題における各関係者の態度・行動を評価します。


① 香川県(自治体)の態度

 香川県は、老朽化・耐震性不足・コスト・安全性を理由に体育館解体の決定を下しました。その判断根拠には確かに現実的・財政的な課題がありますが、AOAから見ると以下の問題点があります:

  • 受動的姿勢の継続(非芸術的): 民間から具体的な再生案が提示されたにもかかわらず、「検討すらしない」という受動的態度は美的とは言えません。「解体ありき」で主体的判断を放棄し、決定事項を覆すことへの抵抗感に縛られているように見えます。

  • 審美眼・主体性の欠如(醜い行動): 丹下健三という世界的建築家が設計した建築物を「財政上やむを得ない」という現実的視点だけで切り捨てる態度は、自らの文化的審美眼を軽視しています。行動を起こす主体性が行政上の判断枠組みに閉じ込められ、美的価値を主体的に評価し、再定義する努力を放棄していると見えます。

  • 美的統一性の欠如(醜い行動): 新しい県立アリーナを建設し旧館を不要と判断したこと自体は現実的ですが、それに伴う古い建築物の「記録保存」措置はAOAから見れば表層的・消極的な対応に過ぎず、美的・倫理的統一性を欠いた不徹底な姿勢です。

【AOA評価】

否定的評価(主体性の欠如、受動的で醜い行動)


② 民間団体(旧香川県立体育館再生委員会)の態度

 再生委員会は、民間資金による体育館再生計画を提案し、県に財政負担を求めない再生の可能性を提示しています。この行動は、AOA的に高く評価できます。

  • 主体的・具体的な実践(美的行動): 「行政に頼らず、自ら資金を調達し建物を再生する」という提案はまさに「行動の芸術」に値します。経営・建築・文化の各専門家を主体的に動員し、現実的な実践として再生案を提示しています。

  • 行動の継続と連鎖性(美的行動): 再生委員会は、具体的な事業計画を立案し、県や社会に影響を与える行動を継続しています。署名活動やアンケートを実施することで、多くの市民や専門家が賛同し、「行動の美学」が社会的に連鎖しています。AOAが賞賛するに値する行動パターンです。

  • 審美眼と社会的責任(美的行動): 丹下健三建築の歴史的・美的価値を積極的に再評価し、「保存は事業として成立しうる」と社会に新たな視点を提示しました。これは単なる建築保護ではなく、地域経済・観光など社会全体を巻き込む責任ある主体的行動です。

【AOA評価】

肯定的評価(主体的・創造的・美的な行動)


③ 建築・文化界、SNS・メディアの態度

 保存運動への国内外の専門家、一般市民、SNSやメディアの反応もAOAから評価します。

  • 専門家・著名人の主体的行動(美的行動): ハーバード大学教授やニューヨーク近代美術館キュレーターなど国内外の著名専門家が主体的に行動し、保存を呼びかけている点は、「行動の美学」にかなっています。現地を訪問し、公式に意見を表明する具体的な行動を伴っています。

  • SNS・市民の連鎖的行動(美的行動): オンライン署名やSNSで保存運動が広がり、市民・専門家・文化人らが次々と参加しているのは、主体的行動の連鎖というAOAが理想とする社会的影響力を発揮しています。特に若者層がSNSで行動を開始し、それが行政やメディアを動かすまでに連鎖したことは賞賛に値します。

  • メディアの対応(一部は受動的): 一般メディアは報道で状況を伝えていますが、一部のメディアが報道の域を超え、主体的意見を表明し具体的行動を促している場合には評価できます。しかし、単なる問題指摘・傍観に留まる報道も多く、主体的行動の促進にはやや弱い面も見られます。

【AOA評価】

  • 専門家・著名人・市民・SNS:肯定的評価(主体的・美的行動)
  • メディア:主体的行動への促進不足があるものの、総じて肯定的評価(社会への連鎖効果あり)

総括的評価(AOA観点)

関係者 主体性 行動の創造性 行動の美しさ AOA評価
香川県(自治体) × × × 否定的(非主体的・受動的)
民間再生委員会 肯定的(主体的・美的)
専門家・市民・SNS △~○ 肯定的(主体的・美的)
メディア △~○ 肯定的だが主体性向上が望まれる

結論(AOA視点による提言)

 香川県(自治体)は再生委員会および市民の主体的行動を評価し、再生プランを真摯に検討する態度に改めるべきです。民間側の主体的行動を尊重し、主体性の欠けた受動的対応から抜け出すことこそがAOA的美徳であり、現代社会に求められる美的・倫理的行動であると提言します。


香川県立体育館の解体問題についてのまとめ