Logoseum│博語館

Shin Sugawara // 菅原真

Ⅰ.大谷は日本に病をもたらした│彼らが吠えれば新聞屋が儲かる

降臨──ユニフォームをまとった神

日本は無宗教の国だと言われている。
だが、神はすでに降臨している。

ユニフォームをまとったその神は、時速160キロの光を放ち、50本の虹をかける。
2024年には神のくせに次の塁を59回も盗んだ。

その名を大谷翔平という。


信仰──スマートフォンという礼拝堂

彼が打てば日本は救われ、凡退すれば日本は沈む。
勝てば奇跡、負ければ背信。

信者たちはスマートフォンを握りしめ、
Xのタイムライン・ニュースサイトのコメントという礼拝堂で祈りを捧げる。

「中継ぎ陣が悪い」「采配が狂っている」「なぜ打たない」――

その呟きは懺悔と断罪のあいだを揺れ動く賛美歌だ。


背信──供物としての英雄たち

大谷の神格が崩れると、次の供物が必要になる。
標的はすぐに見つかる。

ロバーツ監督であり、佐々木朗希であり、かつて崇めた者たちだ。
監督が驚愕の年俸集団を束ね、地区優勝まで導いた記憶など、翌朝には消える。
目の前の試合に勝てなければ、即時無能と烙印を押される。
彼が無能なら、他の球団の選手や監督はどうなるのだ?

人々は大谷が今所属している球団に入信し、新しい教会に跪き、
前の祭壇の名を忘れたことすら忘れている。


憎悪──罵倒という延命治療

信仰とは熱狂の別名であり、熱狂は必ず憎悪に転化する。
罵倒によって“まだ信じている”ことを確認する。

罵倒とは、信仰の延命治療である。


経済──怒号が資本を回す装置

だが、彼らの粘着性は単なる病ではない。
それは社会を動かす経済装置でもある。

彼らは吠えるために、スタジアムを埋め尽くす。
放映権の価格が跳ね上がり、
ネットニュースの見出しが増殖し、
新聞屋は“彼らの怒号”で今日も飯を食う。


循環──情動の再生産システム

怒りが資本となり、罵倒が広告になる。
「大谷が打てば売れ」「打てなくても売れる」――
この完璧な循環の中で、病は進行していく。

崇拝と嘲笑と罵倒の劇場は、 もはやスポーツではなく、情動の再生産システムだ。


結語──感情という新たな神

日本は無宗教の国だと言われている。
だが、信じることをやめた国が次に信じるのは、

神ではなく「感情」だ。

そして彼らが吠えれば、新聞屋が儲かる。


(思想外科診断)

病名:完璧中毒型キャラクター症候群(Perfection Addiction Character Disorder)

症状:
努力・誠実・清潔を神性として設計し、
「欠点のない人間」を信仰対象に変換する。
信者はその完璧さに救済を見出し、
批判もまた崇拝の延命治療として機能する。

予後:
慢性化。
なぜなら、社会が「理想的な人間像」という麻薬を手放せない限り、
この神は進化を続けるからだ。