Logoseum│博語館

Shin Sugawara // 菅原真

第9章│性愛と家族制度のスクラップアンドビルド

※本章では、日本語のあいまいさを回避するため、すべての関連する単語に(child-rearing / education / caregiving)を併記している。

  • 養育(child-rearing):子どもの衣食住や日常的ケアを含む生活基盤。
  • 教育(education):知識や技能の体系的伝達。
  • 介護(caregiving):障害児ケアや高齢の親の介護を含む、生活支援と身体的ケア。

1. 不倫──制度外にあふれ出した性愛

 現代日本で「不倫」は強烈な制裁と娯楽的消費の両面で扱われる。
 著名人が関与すれば社会的生命を失いかねない一方、ネット番組では「裏垢男子の不倫生活」が娯楽化されている。
 この矛盾は、性愛を結婚制度に閉じ込めてきた設計がすでに破綻している証拠である。

 性愛が「家庭」という小さな箱に押し込められるからこそ、逸脱はスキャンダル化し、同時に商品化される。
 不倫は個人のモラルの問題ではなく、性愛の社会的処遇を誤った制度設計の帰結なのである。


2. 婚外子──承継モデルが生んだ差別

 一夫一婦制の下で、結婚は「誰の子か」を確定し、財産と身分を承継させるための制度だった。
 この承継機能こそが、婚外子を「正統ではない子」として差別し、不当な扱いを生む構造を作り上げた。

 親に愛情があっても、制度は子どもを「二級市民」として扱う。
 これは個人の善意や努力では解決できない、制度的差別の再生産である。

 エロス・ゲートウェイの枠組みでは、子どもは婚姻の有無にかかわらず社会の共有財産とされる。
 ここにおいて初めて、婚外子というカテゴリー自体が不要となる。


3. 一夫一婦制──歴史的偶然の絶対化

 一夫一婦制は普遍的な人類の営みではない。
 世界には一夫多妻制も一妻多夫制も存在し、複数親モデルも文化的に根付いてきた。
 にもかかわらず近代国家は、一夫一婦制を「文明的で唯一の正解」として固定化した。

 その結果、性愛と養育(child-rearing)を無理にひとつの箱に押し込み、逸脱者を不倫者として罰し、子を婚外子として差別する枠組みが形成された。
 だが社会養育が普遍化する時代において、一夫一婦制を唯一のモデルとする必然性はもはや存在しない


4. ひとり親──家族一任の過重負担

 現代日本では、離婚や死別などによって増加したひとり親家庭が大きな負担を背負っている。
 生活と養育(child-rearing)を同時に担う重圧は、しばしば貧困と孤立を生み、子どもの未来に深刻な影響を与えている。

 特に女性のひとり親であるシングルマザーは、貧困解消のセーフティネットの不備により、闇市場へと押し出されてきた。
 非正規雇用や低賃金労働では生活を支えきれず、風俗やパパ活といった裏経済に流れ込むケースは少なくない。
 そこで待ち受けるのは、搾取とリスクだけであり、社会はその犠牲を「自己責任」として見過ごしてきた。

 この構造は、個人の努力不足ではなく、性愛と養育(child-rearing)を家庭に一任する制度設計そのものが生み出した罠である。


5. 介護(caregiving)──隣接課題としての認識

 家族一任モデルの矛盾は、子育て(child-rearing)だけではない。
 障害を持つ子どものケアや、高齢の親の介護(caregiving)もまた、家庭に押し込められてきた。

 障害児のケアは24時間体制を必要とし、親は仕事や生活のほとんどを犠牲にする。
 また高齢化が進む現代社会では、「老老介護」「介護離職」が日常化し、働き盛り世代が親の介護に人生を奪われている。

 これらは、性愛や養育(child-rearing)と同じく「家庭に閉じ込められた負担」であり、制度的限界を象徴している。
 しかしエロス・ゲートウェイ構想は、あくまで性愛と child-rearing / education を再設計する枠組みであり、介護(caregiving)そのものを解決する制度ではない

 EGは、介護問題を「家庭依存モデルが生んだ隣接課題」として認識にとどめる。
 介護(caregiving)の制度化は、EGと並行して進められるべき別の社会改革課題である。


6. スクラップアンドビルド──性愛はリゾートで、子育ては社会で

 不倫、婚外子、一夫一婦制、ひとり親──これらは結婚制度を基盤とする「家族一任モデル」が生み出した矛盾である。
 個人を断罪しても問題は解決しない。必要なのは、制度そのもののスクラップアンドビルドである。

  • 性愛はリゾートで安全に管理・課税・文化化する。
  • 子どもは親の婚姻状態や血統に関わらず、社会の共有財産として守られる。
  • 家族は愛情の場として尊重されるが、性愛と養育(child-rearing)を一任される装置ではなくなる。

 こうして制度を作り直すとき、不倫は逸脱の烙印から解放され、婚外子は差別から解放され、一夫一婦制は歴史的偶然として相対化され、ひとり親は孤立から救済される。

 エロス・ゲートウェイは、性愛と養育(child-rearing / education)を再設計する人類的挑戦である。
 介護(caregiving)はその隣接課題として位置づけられ、別の制度改革に委ねられる。


📑 エロス・ゲートウェイ構想 第一部「思想編」目次