Logoseum│博語館

Shin Sugawara // 菅原真

第5章│性愛リゾートと国家戦略

1. 「性愛ウェルネス産業」への格上げ

 エロス・ゲートウェイの第一歩は、性愛を闇市場やグレーゾーンから切り離し、公認の国策産業へと位置づけることだ。
 「風俗」「AV」といった言葉の持つスティグマを脱ぎ捨て、「性愛ウェルネス産業」として再定義する。
 その狙いはふたつある。

  • 性愛を「不健全な隠しごと」から「堂々たる社会インフラ」に変える。
  • 産業化による資金力と透明性を、教育・福祉・医療に還流させる。

2. リゾートモデルの設計

 性愛を制度化する最もわかりやすい形が「性愛リゾート」である。

  • 温泉地型: 医療と癒しと性愛を統合した「Eros Wellness Resort」。療養観光とセットで展開し、地方創生の柱となる。

  • 都市型: 歌舞伎町や梅田といった大都市に「性愛タワー」を設置。エンタメ・舞台演出と結合させ、表の観光産業と統合する。

  • 歴史的歓楽街型: 吉原や中州など、かつての遊郭を文化特区として再生。「遊女税」=性愛税という歴史的正統性を復権させ、文化資源として磨き直す。

 リゾートモデルは単なる観光資源ではない。
 「性愛を安全に、誇らしく享受できる」拠点であり、同時に 闇市場を一掃する吸引力を持つ。


3. 国際戦略:世界一安全な性愛都市

 性愛リゾートは内需だけでなく、国際観光の目玉となる。その実現には、観光資源としての魅力だけでなく、安全性と健康管理を徹底する仕組みが不可欠である。

  • 性愛ビザ制度:観光客が安心して利用できるよう特別ビザを発行する。ただし安易には交付せず、渡航前の健康診断や滞在中の医療サポートを義務化することで、安全性を最優先する。
  • 外国人提供者のライセンス化:不法滞在や人身取引を防ぐため、厳格な身元確認と医療検査を条件としたライセンス制度を導入。登録提供者には定期健診とカウンセリングを義務づけ、健康と人権を守る。
  • セクシャル・ウェルネス観光:温泉・医療・観光を統合し、「健康と安心を伴う性のリゾート」としてブランド化する。感染症対策、メンタルケア、地域医療との連携を組み込むことで、従来の「性観光」とは一線を画す。

 さらに、リゾートの入口には空港並みの入退管理施設を設ける。ここでは健康証明・ビザ確認・反社排除が徹底され、出入場そのものが「安全の象徴」となる。
 この入退管理施設こそ、狭義のエロス・ゲートウェイ」である。すなわち、性愛リゾートは「空港=ゲートウェイ」をモデルとし、国際基準で設計された管理システムを通じて、世界一安全な性愛都市としての信頼性を確立する。

 「性を消費する観光」ではなく、安全と健康を基盤としたセクシャル・ウェルネス観光──これこそが世界一安全で文化的な性愛都市のビジョンである。
 その信頼性を高めるために、WHOやUNAIDSなど国際保健機関との連携を制度に組み込み、グローバルスタンダードに沿った安全基準を常に更新していく必要がある。


4. 財源と再分配

 性愛リゾートの根幹を支えるのが 性愛税 である。

  • 特区内の取引に課税し、基金を設ける。
  • この収益を一般財源に入れず、ベーシックインカムとして100%を国民に均等配分する。
  • 参加しない人も恩恵を受けるため、性愛活動=社会全体への還元となる。

 さらに重要なのは、提供者自身の職業的承認である。
 女性(および提供者)は収入を得て確定申告し、納税することで、正規の職業として社会的に認められる。
 これによりローン審査や社会的信用の対象となり、「匿名の労働」から「公的に守られる職業」へと格上げされる。

 この仕組みによって、性愛は「搾取の場」から「再分配と承認の装置」へと変わる。


5. 実効性を担保するための方策

 エロス・ゲートウェイを理念で終わらせず、実装へと進めるためには、現場と政策をつなぐ中枢が不可欠である。
 この構想を実効性あるものにするため、政府は「性愛リゾート諮問会議」を設置する。
 これは現在存在する重要政策会議(経済財政諮問会議、総合科学技術・イノベーション会議、国家戦略特区諮問会議、中央防災会議、男女共同参画会議)に続く、第6の政策会議として位置づけられる。

 この諮問会議のメンバーは、特定の業界に偏ることなく、多様な立場から構成される。
 産業界と医療・人権・法制度・当事者の声を組み合わせることで、闇市場を吸収しつつ国際的にも批判に耐えうる制度的正当性を確立できる。


性愛リゾート諮問会議メンバー(案)

① 産業界の知見

市場形成や国際展開のノウハウを政策に反映させる。

  • AVトップメーカーの代表
  • 観光産業関係者など

② 医療・健康の専門家

提供者と利用者双方の安全を保障する。

  • 産婦人科・性感染症対策・精神医療の専門医
  • 公衆衛生の研究者

③ ジェンダー・人権の専門家

女性や未成年を守る視点を制度に組み込む。

  • ジェンダー研究者
  • 人権団体代表
  • 児童福祉の専門家

④ 法と制度設計の専門家

既存法制との整合性を担保する。

  • 弁護士(労働法・刑法・性犯罪関連法)
  • 関連省庁の行政官

⑤ 当事者の声

現場での実感を制度に反映させ、形骸化を防ぐ。

  • 現役または元提供者の代表、利用者代表

6. 国家戦略としての性愛

 性愛を裏社会に閉じ込めるのではなく、国策として公認し、国家戦略の柱に据えるべきである。
 性愛リゾートはその象徴であり、実装モデルである。

 ここで生み出される税収は、100%がベーシックインカムとして国民に均等配分される
 これは従来の特定分野への補助金ではなく、すべての人に保障として届く直接的な福祉である。
 その結果として、教育や医療への支出余力が各家庭に生まれ、間接的に社会基盤を強化する循環が形成される。
 言い換えれば、ベーシックインカムは「直接の再分配」であり、その効果が社会全体の教育・医療・福祉に「間接の再分配」として波及するのである。

 提供者は収入を申告し、納税することで正規の職業として承認され、社会的信用と生活の安定を手に入れる。
 性愛が「隠された恥」から「誇りある職業」へと転換することで、母親や女性の生き方は束縛から解放される。

 エロス・ゲートウェイは、性愛をリスクから資本へ、搾取から承認へ、恥から誇りへと変換する。
 その先頭に立つのが、「性愛リゾート」という制度的な実験場なのである。


7. 現代世界に存在する性愛特区の事例

 性愛を制度的に位置づける試みは、突拍子もない発想ではない。世界各地にすでに先行事例が存在する。

  • オランダ・アムステルダム:有名な「飾り窓地区(Red Light District)」は、売春を合法化し、営業許可制と健康管理を徹底した制度的特区である。観光資源であると同時に、治安維持や感染症対策のモデルともなった。しかし近年は人身売買や観光公害への批判も強まり、縮小政策に舵を切っている。
  • ドイツ:2002年に売春が合法化され、労働契約・社会保険・税金の対象となる。性労働は「職業」として認められ、大規模施設も運営されている。一方で、移民女性の低賃金労働や「性の工場化」への批判が根強く、国際機関から人身取引助長の懸念も指摘されている。
  • 米国ネバダ州:州法に基づき、郡単位で「売春宿」がライセンス制で合法化されている。規制下で営業するため、税収と地域経済への貢献が明確である。しかし都市部では禁止されており、闇市場の需要を吸収しきれていない。

 これらの事例はいずれも「禁止と黙認」の二重構造を解消し、透明な制度設計に移行した点に意義がある。
 同時に、どの事例も人身取引・移民労働・地域社会への影響といった課題を十分に解決できていない。

 したがって日本が「性愛リゾート」を構築する際には、これらの功罪を直視し、医療・人権・福祉・法制度を統合した万全の設計を整える必要がある。
 そうしてこそ、性愛をリスクではなく資源とし、世界に先駆けた持続可能なモデルとして確立できるのである。


8. 教訓の整理

 海外の性愛特区の事例は、成功と失敗の両面を示している。そこから日本が学ぶべき教訓は明確である。

  1. 人権と安全の最優先  人身取引・移民女性の搾取・未成年者の巻き込みを防ぐため、厳格なライセンス制度と監視体制を整える。

  2. 地域社会との調和  観光公害や治安悪化を防ぎ、地域住民の生活環境を守るため、ゾーニングと住民参加型のガバナンスを導入する。

  3. 制度の透明性と持続性  収入の透明な申告・納税を義務化し、労働環境のモニタリングを定期的に行う。闇市場の再拡大を防ぐために、制度を不断に更新する。

 こうした教訓を踏まえ、エロス・ゲートウェイは「倫理と現実の二重構造」を解消し、人権を守りつつ普遍的欲望を社会の資源へと転換する仕組みとして設計されなければならない。

 ここで強調したいのは、海外の失敗事例には、日本のような世界に誇れるAV産業が存在しなかったという点である。
 日本のAVメーカーは世界中にファンを獲得しており、その影響力はアニメや漫画と並ぶカルチャー現象である。むしろ、アニメや漫画が表舞台を走るなら、AVは裏街道を切り開きながら国際的なファンダムを築いてきた。
 この文化的土壌こそが、日本が性愛リゾートを世界標準のモデルに高める決定的な強みである。


📑 エロス・ゲートウェイ構想 第一部「思想編」目次