第4章│闇市場とグレーゾーン
執筆日: 2025-09-03
公開日: 2025-09-22
1. ソープランドという黙認構造
日本のソープランドは「浴場営業」として届け出ながら、実際には性的サービスを提供している。
これは法の隙間を縫った形態であり、国家や自治体が「摘発すれば経済が崩れる」と理解しているため、事実上黙認されている。
その結果、会計の透明性は失われ、課税逃れと反社会的勢力の資金源となり、提供者の労働環境も不明瞭なまま放置されている。
ソープランドは、まさに「禁止と黙認」の二重構造を象徴する存在である。
2. 不倫の制裁と娯楽化
「不倫は許されない」という倫理観が繰り返し語られ、日本では一部の著名人の不倫に対しては、まさに「必要以上のすさまじい鉄槌」と呼ぶべき社会的制裁が下される。
その一方で、新興のインターネットTVなどのメディアでは「裏垢男子の不倫三昧」といった企画が番組化され、娯楽として消費されている。
取材する側、出演する当事者、視聴する側──三者がそろっているからこそ番組は成立する。
つまり社会は「叩きながら楽しむ」という二重基準を持ち、不倫を一方で裁き、一方で消費しているのである。
これは、性愛を家庭に閉じ込める制度設計がすでに破綻している証明であり、現代社会が抱える二重基準の象徴でもある。
もっとも、この扱いは文化圏によって大きく異なる。
- 欧米の多くの国では、不倫は道徳的な非難は受けても、基本的に「私生活の問題」として報道が一定の線を引く。
- 中東や南アジアの一部では、不倫は宗教的・法的制裁の対象であり、場合によっては刑罰が科される。
- フランスなどのラテン文化圏では、不倫スキャンダルは芸能ニュースやゴシップ誌で消費される一方、社会的制裁は日本ほど激烈ではない。
この比較は、日本社会が「倫理的厳罰主義」と「娯楽的消費主義」を同時に抱える独特の構造を示している。
3. パパ活という現代型の闇市場
SNSやマッチングアプリを介して広がる「パパ活」もまた、典型的な闇市場である。
合意の名の下に金銭と性愛が取引されるが、そこに課税も労働保障も存在しない。
梅毒やクラミジアといった性感染症が拡大する温床となり、若年女性が経済的格差に追い込まれる形で参入している。
さらに深刻なのは、シングルマザーが生活と育児を支えるためにこの闇市場へと流れ込む現実である。
非正規雇用や低賃金では子どもを養えず、公的扶助は不十分なため、裏経済に頼らざるを得ない。
そこで待ち受けるのは、搾取とリスクだけであり、社会はその犠牲を「自己責任」として見過ごしてきた。
4. 女性用風俗番組に見た普遍性
近年は女性用風俗がテレビやネットで取り上げられるようになった。
番組は「女性が堂々と性を語ること自体が新しい」といった調子で演出されるが、実際に目にすれば、その内容に特段の目新しさはない。
利用する女性の動機は、
- 「自分の性癖・性的志向・性自認に合致したから」
- 「パートナー関係では満たされない欲望を確かめたいから」 といったものであり、これは男性が風俗を利用する理由と全く同じである。
それにもかかわらず、社会は「男性の利用=欲望の発散」「女性の利用=癒しや自立の象徴」といった二重の物語をまとわせようとする。
だが、そこに潜む欲望の構造は性差を超えて普遍的である。
実際、韓国や欧米でも「女性専用ホストクラブ」や「女性向けエスコートサービス」が登場しており、報道はしばしば「文化的に新しい現象」として取り上げる。
しかし利用動機を掘り下げれば、日本と同じく、根底にあるのは普遍的な性的欲望にすぎない。
つまり女性用風俗は「男女差を強調する報道」と「実際には同じ欲望」という落差を抱え込むことで、またしても倫理と現実の二重構造を映し出しているのである。
5. 倫理と現実の二重構造
ここまで見てきた事例は、いずれも同じ構造を抱えている。
- ソープランド:法律上は禁止されながら、経済的理由で黙認される二重基準。
- 不倫:倫理的には断罪されつつ、メディアでは娯楽として消費される二重基準。
- パパ活:自由な合意とされつつ、実態は無課税・無保障で搾取と感染症を拡散させる闇市場。
- 女性用風俗:男女差が強調される一方で、実際には欲望の普遍性に収束する二重基準。
社会は表向きには「倫理」を掲げながら、その裏側でそれを破る現実を享受し、消費している。
そして、シングルマザーをはじめとする脆弱層がこの闇市場に頼らざるを得ない現実を、制度は放置してきた。
この「倫理」と「現実」の二重構造こそが闇市場を温存し、心身の健康リスクや人命リスクを拡大させる温床になっているのである。
6. 結論:普遍的欲望を制度に取り込む
闇市場やグレーゾーンは、常に倫理と現実の二重構造の隙間から生まれてきた。
性欲は人間に普遍的に備わった欲望であり、男女差もなく、いかなる禁止や黙認によっても消し去ることはできない。
だからこそ必要なのは、矛盾に目を背けることではなく、欲望を正面から制度に取り込むことである。
透明なルールのもとで性愛を扱うことこそが、搾取やリスクを排し、社会的な資源へと転換する唯一の道なのだ。
エロス・ゲートウェイは、この二重構造を断ち切り、闇市場を制度の光の下に置くことで、シングルマザーを含む脆弱層を守り、普遍的欲望を社会の持続可能な力へと変えていく。