第8章│家族依存からの解放と社会養育
執筆日: 2025-09-03
公開日: 2025-09-26
※本章では、日本語のあいまいさを回避するため、すべての関連する単語に(child-rearing / education)を併記している。
ここでいう「養育(child-rearing)」は衣食住や日常的ケアを含む生活基盤、「教育(education)」は知識や技能の体系的伝達を意味する。
1. 親子愛を否定しない
子どもが親を無条件に愛し、母が子を無条件に慈しむ──これは人間の本能であり、尊重されるべきものである。
親子愛は多くの場合、子どもにとってかけがえのない安全基地となり、成長を支える力となる。
だが一方で、この本能的な絆が機能しない家庭も確実に存在する。
身体的な虐待を加える、感情に応えない、必要な医療を受けさせないなどだ。
現実にはこのようなネグレクトにより、毎年、数百人単位で子どもが命を落としている。
ここで問うべきは、「親子愛にすべてを委ねる制度」で本当に子どもを守れるのか、ということである。
2. 家族一任の終わり
近代社会は、性愛と養育(child-rearing)を家庭に一任させてきた。
結婚制度は、性愛を管理すると同時に、子どもを「親の所有物」として扱う枠組みを生んだ。
その背景には、一夫一婦制が担ってきた財産と身分の承継機能がある。
「誰の子か」を確定し、血統を守るためにこそ、性愛と養育(child-rearing)は家庭の内側に閉じ込められたのである。
国家は学校教育(education)を制度化することで知識伝達の一部を引き取ったが、日常の生活基盤=養育(child-rearing)は依然として家庭に一任されたままだった。
しかしこのモデルは、現代においては構造的に破綻している。
- 家族にすべてを任せることで、愛情が不在の場合に命が失われる。
- 障害者支援や老後介護もまた「家族依存」が限界を迎えている。
- 「親ガチャ」という言葉が象徴するように、子どもの未来が家庭の偶然によって左右されすぎている。
- そして何より、この承継機能の副作用として、「婚外子」は不当な扱いを受け、制度的に差別されてきた。
一夫一婦制は秩序維持に役立った一方で、婚外子差別という構造的不利益を生み出し、親の愛情があっても社会がそれを否定する仕組みとなってきたのである。
3. 社会が子を育てる制度
家族依存の解放
エロス・ゲートウェイ構想が提案するのは、「家族の解体」ではなく「家族依存の解放」である。
- 子どもは親の所有物ではなく、社会の共有財産と位置づける。
- 基本的な養育(child-rearing)・教育(education)・生活基盤は社会システムとして担保する。
- 親の愛情はもちろん尊重されるが、それが不在でも子どもが守られる仕組みを整える。
歴史的な萌芽
この考え方の種はすでに社会に存在している。
日本の「赤ちゃんポスト」は、親が育てられない子を匿名で社会に委ねる仕組みであり、家族依存からの脱却を象徴する小さな芽である。
また、古来から世界各地に存在する「里親制度」は、血縁に頼らずに社会が子を育てる実践例である。
普遍的な歴史的実践
さらに歴史を振り返れば、養子や子の引き取りは特別なことではなかった。
古代ローマでは「養子制度」が確立しており、血縁以外の子を家族に迎え入れることは社会的に広く認められていた。
加えて、15世紀イタリア・フィレンツェではヨーロッパ最古の孤児保護施設とされる「インノチェンティ捨児養育院」が設立され、イスラム世界では「ワクフ」と呼ばれる寄付基金によって孤児や貧困層が支えられてきた。
つまり「社会が子を育てる」という発想は人類史的にも普遍的であり、近代の「一夫一婦制+家族一任モデル」こそがむしろ例外的な構造なのである。
エロス・ゲートウェイ構想は、こうした歴史的知恵を現代的に制度化し、常設かつ普遍的な仕組みとして再設計しようとする試みである。
4. 性愛と養育の分離
エロス・ゲートウェイの思想は、性愛と養育(child-rearing)を制度的に分離することにある。
- 性愛はリゾートで:大人が安心して楽しむ制度的な場として設計し、闇市場を一掃する。
- 子育て(child-rearing)は社会で:愛情が機能する家庭ではそれを尊重し、そうでない場合には社会がセーフティネットを提供する。
この分離によって、婚外子は「正統/非正統」という区別から解放され、すべての子が平等に守られる。
つまり、一夫一婦制が担ってきた「承継」の役割は制度から切り離され、財産や地位は個人単位で社会的に承認されるように再設計される。
5. 育児の先輩の活用
ここで特に強調すべきは、「育児の先輩」を公共インフラとして取り込むことである。
子育て(child-rearing)を終えた中年以降の男女の中には、なおも育児への情熱や経験を活かしたいと願う人が少なくない。
彼らを積極的に制度へ組み込み、社会的に認定された「セカンド・ペアレンツ」として活用することで、子どもの成長を支えると同時に、中高年世代にも新しい居場所と役割を提供できる。
6. 制度的提言
これは子どもの安心だけでなく、現役の親の解放、さらには高齢化社会の持続可能性をも保障する制度的提言である。
「親が育てるしかない」という呪縛を解き、社会が子を守る責任を担うことで、結婚制度の副作用であった不倫・婚外子の差別も解消される。
7. 結論
一夫一婦制は、財産と身分の承継を秩序づけるために強固に維持されてきた。
だがその機能こそが、婚外子差別や子どもの不当な扱いを生み、親子の愛情すら制度が傷つける構造を作り出した。
エロス・ゲートウェイは、性愛と養育(child-rearing)を切り離し、社会全体で子を育てる仕組みを整えることで、この構造的限界を超える。
子どもは婚姻の有無や血統の正統性に縛られず、社会の共有財産として平等に育まれる。
性愛はリゾートで安心して享受され、養育(child-rearing)は社会が責任をもって支える。そして育児の先輩世代はその循環に組み込まれ、世代間のつながりが新たな公共インフラとして再構築される。
こうして「性愛と養育(child-rearing)を結婚に一任する時代」は終わりを告げ、社会全体が持続可能な新しい契約へと移行するのである。