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Shin Sugawara // 菅原真

日産の衰退シナリオ

意思決定の遅さと内向きの政治が生んだ終焉への道

※本記事は執筆時点の見解であり、当時入手可能だった情報に基づいて分析したものである。そのため、現在の視点や新たな情報とは異なる場合があることをご了承いただきたい。

1. 序章:ホンダ統合破棄という致命的判断

 2025 年 2 月、日産はホンダとの経営統合協議を破棄する決定を下した。ホンダが提示した【子会社化】という条件に対し、日産の経営陣は激しく反発し、結果として統合合意は破談に終わった。

 この決定は、単なる企業間の交渉決裂ではない。日産が【合理的な経営判断よりも、内向きの社内政治を優先した】瞬間であり、衰退への道を決定づけた重要な分岐点である。

 本記事では、日産の衰退シナリオを、【役員の判断】【役員直下クラスの判断】という人間の生々しさを前面に出して分析する。


2. 役員の判断:【合理的判断】より【社内での権力維持】

 日産の役員たちがホンダの子会社化提案を拒絶した背景には、単なるプライドではなく、彼らの【生存戦略】 があった。

役員たちの心理と行動

① 子会社化=自分たちの失脚

  • ホンダ主導の統合が進めば、日産の経営陣はほぼ確実に入れ替えられる。
  • 彼らにとっての最大の関心事は、日産が生き残るかどうかではなく、《自分たちのポストが守られるかどうか》だった。

② 日産ブランドの独立性=社内文化的プライド

  • 日産は歴史ある自動車メーカーであり、ホンダの傘下に入ることは【敗北】と受け取られた。
  • しかし、これは実質的な経営戦略ではなく、感情的な抵抗に過ぎない。

③ 社内政治を優先

  • 役員の中には、統合のメリットを理解していた者もいた可能性がある。
  • しかし、統合を推進すれば社内での影響力を失うため、最終的には【多数派に従う】形で統合拒否の決定が下された。

➡ 役員たちは【組織の未来】ではなく、【自分たちのポストを守るための政治判断】をした。


3. 役員直下クラスの判断:二極化する生存戦略

 役員の直属の部下たちは、今回の決定に対して【忠誠派】と 【転職派】に分かれただろう。

選択肢 ①:社内政治を選び、役員の顔色を伺った者

  • 《役員たちが統合を拒否するなら、自分もそれに従ったほうが得だ》
  • 《日産の未来よりも、自分のポジションを守ることが重要》
  • 《今さらホンダ側に立っても意味がない。ここで忠誠を示せば、将来昇進の道が開けるかもしれない》

➡ 彼らは【追い込まれた組織としての選択】ではなく、【自分のキャリアにとって安全な選択】をした。

選択肢 ②:合理的判断を貫き、転職を決意した者

  • 《日産がホンダの子会社になったほうが、会社の将来にとって最善だ》
  • 《今の経営陣が統合を拒否するなら、日産に未来はない》
  • 《ここに残るのは愚策だ。転職しよう》

➡ 彼らは会社の未来を見限り、より競争力のある企業への転職を決断した。

➡ 結果として、組織には【忠誠派】だけが残り、合理的に判断する人材は去っていく。日産はさらに変革できない組織へと硬直化する。


4. 今後の日産に待ち受ける未来:3 つの衰退シナリオ

 ホンダとの統合破棄によって、日産が選べる未来は極めて限定的になった。

シナリオ ①:緩やかな衰退

  • EV 市場での競争力を失い、徐々に市場シェアを減らす。
  • 組織の硬直化が進み、【変革できない企業】へと変貌。
  • ブランド価値が低下し、トヨタ・ホンダに大きく差をつけられる。

➡ 会社は存続するが、かつての名門が【二流メーカー】として扱われる未来。

シナリオ ②:ルノーとの関係再強化、または他社に吸収

  • ルノーとのアライアンスを強化し、何とか存続を図る。
  • しかし、ルノー自体も単独での競争力が厳しく、最終的にフォルクスワーゲンや中国 EV メーカー(BYD など)に買収される可能性が高い。

➡【日産】というブランドは存続するが、独立した企業としての価値は失われる。

シナリオ ③:破綻・解体

  • 経営危機が深刻化し、最終的に国内外の企業に分割・解体。
  • 日産 EV 部門は海外勢に買収され、内燃機関部門は縮小・廃止。
  • 【日産】というブランド自体が消滅する可能性も。

➡ 自力で生き残れない企業は、市場から消えるシナリオ。


5. 結論:日産は、もう変われない組織になった

 今回のホンダとの統合破棄は、日産にとって【単なる交渉決裂】ではない。

  • 未来を見据えて合理的な選択をする人材が去る。
  • 社内政治を優先する人材だけが残る。
  • その結果、組織の硬直化が進み、抜本的な変革が不可能になる。

➡ 日産は【過去の成功にしがみつき、未来を考えない組織】へと変貌した。これこそが、緩やかな衰退とブランドの消滅を迎える企業の典型例である。