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Shin Sugawara // 菅原真

『ウマ娘』は気持ち悪い│文化と主張すれば何でもありか?現代日本の異常な擬人化(美少女化・イケメン化)を斬る

擬人化された欲望──『ウマ娘』『艦これ』『刀剣乱舞』に潜む倫理的病理


① イントロダクション

擬人化コンテンツの隆盛

 近年、『ウマ娘 プリティーダービー』(2018年~)という、実在する競走馬を美少女キャラクターとして擬人化するコンテンツが日本で大きな人気を博している。これは単なるアニメ作品に留まらず、ゲームや関連イベントなど多方面に展開され、メディアミックスとして高い影響力を持つようになった。また、『艦隊これくしょん -艦これ-』(2013年~)は軍艦、『刀剣乱舞』(2015年~)は歴史的な刀剣を擬人化した類似のコンテンツであり、いずれも熱狂的なファン層を形成している。

「気持ち悪い」という感覚の正当性

 しかし、この種のコンテンツを「気持ち悪い」と感じる視聴者が一定数存在することも事実である。こうした感覚を表明すると、「他人が好きなものを否定するのは非常識だ」「好みは自由だ」という反論がしばしば寄せられる。だが、メディアコンテンツは個人的趣味を超えた社会的・文化的影響力を有しており、その影響や倫理的な側面を批評する行為は非常識ではなく、むしろ健全で必要な議論であると考える。

本記事の目的

 本記事では、なぜ私のような視聴者が『ウマ娘』『艦これ』『刀剣乱舞』などの擬人化コンテンツに強い違和感や倫理的拒絶感を覚えるのか、その心理的・社会的な背景を詳細に検討する。こうした感覚を無視するのではなく、むしろ掘り下げることで、擬人化コンテンツが抱える潜在的な問題点を明確にし、文化やエンターテインメントのあり方について議論を深めることを目的とする。


② 総合評価・概要

 上記で述べた擬人化コンテンツ群は、歴史的・文化的な要素を巧みに取り込み、多くのファンを獲得している点で商業的には大きな成功を収めている。しかし、その成功の背景には、対象となる実在物を極端に美少女化・イケメン化し、キャラクター化することによって引き起こされる倫理的、心理的な問題が潜んでいる。このような表現手法が、無意識に人々の価値観や感覚を歪ませ、社会全体に与える影響を軽視してはならない。


③ 作品の強み・特筆すべき点

  • 高品質なアニメーションと魅力的なキャラクターデザイン:『ウマ娘』『艦これ』『刀剣乱舞』はいずれも美しく洗練されたビジュアルで視聴者を惹きつけており、キャラクターの造形には細部までこだわりが見られる。
  • 史実や文化を踏まえた背景やエピソードの巧みな取り入れ:各作品は実在の競走馬や軍艦、刀剣の歴史的背景や逸話を取り込み、ファンの歴史的興味を巧みに刺激している。
  • 元の題材(競馬、軍艦、刀剣)というリアルな要素の丁寧な描写:細かな史実考証や現実感ある設定が、視聴者にリアリティを提供し、感情移入を容易にしている。

④ 問題点・改善すべき点

  • 実在するものを美少女・イケメン化し消費することの倫理的違和感:擬人化が過剰になると、対象物への尊重を欠き、単なる消費の対象として扱われる危険性がある。特に、実在した競走馬や戦争で使われた軍艦を安易に擬人化することには倫理的懸念が伴う。
  • キャラクターを過剰に性的または愛玩動物的な視点で描写する傾向:多くの擬人化コンテンツは、美少女化・イケメン化を通じて性的な消費を強調し、キャラクターを過剰に愛玩化する傾向がある。この傾向は視聴者の価値観を歪ませ、倫理的問題を生む可能性がある。
  • 元題材の持つ社会的・歴史的負の側面の無視または軽視:競馬の持つ動物虐待問題、軍艦が象徴する戦争や破壊、刀剣が持つ殺傷という負の側面が擬人化を通じて過度に美化され、その現実的な負の影響が軽視される恐れがある。これらの側面を意識的に取り入れ、批評的視点を提示することが必要である。

ゲームやコンテンツ内世界に没頭することは悪いことではない。しかし、現実世界のものを題材にしているならば、そこから楽しめる部分だけを抽出して【萌え化】し、まるでパラレルワールドのように扱うことは倫理的に許されてはならないのではないか?


改善方法の提言

 擬人化コンテンツが抱える倫理的・社会的問題を緩和し、作品に深みと責任感を与えるための具体的な改善策を以下に提示する。

1. 実在の対象との距離感の明確化

 擬人化作品では、現実とフィクションの境界線が曖昧になりやすいため、明確な線引きを行う必要がある。具体的には、各エピソードやイベント終了後に、モデルとなった実際の対象(競走馬、軍艦、刀剣など)の歴史的・現実的側面を紹介するセグメントを設ける。

例:

  • 『ウマ娘』の場合、各競走馬のレース後に実際の競馬史や競走馬が直面した困難、功績について短いドキュメンタリー映像や画像とともに提示する。
  • 『艦これ』や『刀剣乱舞』においても、実際の軍艦や刀剣が関わった歴史的出来事や背景を作品外の資料として提示する。

2. 性的・愛玩的表現の抑制とキャラクターの深掘り

 擬人化されたキャラクターを性的あるいは愛玩物として過剰に描くことを抑制し、各キャラクターの人間的側面や背景により深く焦点を当てるべきである。キャラクターの内面や葛藤、努力や成長に焦点を置いたストーリー展開を推奨する。

例:

  • キャラクターが持つ歴史的・社会的背景を掘り下げたスピンオフ短編を作成し、公式ウェブサイトや特別イベントで公開する。
  • ファン交流イベントを、性的なコンテンツではなく、キャラクターの人間的魅力や物語に関する対話を中心に構成する。

3. 元題材の負の側面を作品内で批評的に扱う

 元題材が持つ負の側面(動物虐待、戦争の悲劇性、武器としての暴力性)を避けることなく正面から取り入れ、作品内で明確に描写し、倫理的な葛藤を示すことで視聴者の批評的視点を養う。

例:

  • 『ウマ娘』においては、競馬界での動物福祉問題をテーマとしたストーリーラインを導入し、ファンが現実問題について議論する契機を提供する。
  • 『艦これ』や『刀剣乱舞』では、戦争や戦闘の悲劇性・非人道性を描くエピソードを取り入れ、戦争の美化を避ける。
  • ストーリー内で倫理的な議論や対立を積極的に導入し、キャラクターが抱える葛藤を通じて視聴者が倫理的問題を考える仕掛けを作る。

 これらの改善案を通じて、擬人化コンテンツは単なる娯楽を超え、倫理的かつ社会的な責任を果たす文化的作品へと成熟していくことが期待される。


⑤ 業界への批評、産業的観点からの考察

 現在の業界全体が擬人化と【萌え】要素に過度に依存する傾向は否定できない。この依存はオールドメディア・ニューメディアを問わず蔓延する【数・売上至上主義】(数字主義・マーケティング主義)と本質的に同質であり、短期的な収益を確保することには効果的だが、長期的には作品の深みや社会的な評価を損なう恐れがある。業界は消費者を単なる購買層として見るのではなく、文化の担い手としての責任を認識し、倫理的・社会的な影響を考慮した作品作りを目指す必要がある。


⑥ 推奨する類似作品・参考作品

  • 『けものフレンズ』(たつき監督、2017年)

    • 擬人化された動物たちが持つ特徴を忠実かつ愛情深く描きつつ、人間と自然との関係性について考えさせるテーマを組み込み、視聴者に優しい教育的メッセージを伝えている。極端な性的表現や商業主義的な消費を避け、倫理的配慮が明確に施されている点が評価される。
  • 『シートン動物記』(原作:アーネスト・T・シートン、1901年~)

    • 動物たちを人間的視点で描きつつも、生態学的リアリティと動物本来の習性や尊厳を損なうことなくバランスよく表現している。生命のリアリティと感情移入の絶妙な調和により、読者の倫理観や感受性を育てる教育的価値を併せ持つ古典的な名作である。

⑦ 総括

 『ウマ娘』『艦隊これくしょん -艦これ-』『刀剣乱舞』に対して感じる【気持ち悪さ】は、表面的な嗜好の差異を超え、私たちが無自覚に抱く倫理的・文化的な危機感の反映である。これらの作品は、楽しさや商業的な成功だけに目を奪われがちだが、その背景に潜む倫理的問題から目を逸らし続けることは許されない。今後のコンテンツ制作においては、単なる消費欲求の充足ではなく、人間の尊厳や社会的責任を踏まえた深みのある表現を追求しなければならない。それが文化を成熟させる道であり、その責任は製作者だけでなく、私たち視聴者一人ひとりにも問われているのである。